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8358 スルガ銀行 [企業調査]

『実際以上に大げさに扱われた小悲劇があると、いつもそこには大きなチャンスが眠っている。』ピーターリンチの言葉にもあるとおり、ブラック企業の代名詞となったスルガ銀行も、株式投資という観点では違った見え方になると思い、少々まとめてみました。

銀行について

地方銀行第二地方銀行を含めると全国に104行の銀行が存在します。地方銀行とは、全国地方銀行協会の会員である銀行のことを言い、第二地方銀行とは、第二地方銀行協会の会員である銀行のことを言います。双方の違いに所属している協会が違いが挙げられ、第二地方銀行は、元は相互銀行で平成元年以降に「金融機関の合併及び転換に関する法律」に基づき、株式会社へと転換し普通銀行となった銀行のことです。

銀行業は、マイナス金利政策の影響で運用利回りの早期改善は望みが薄く、少子高齢化に伴う人口減少が進むこともあることから、今後も地銀どおしの再編や連携の動きは頻繁に起こることが想定されます。

もともと銀行の仕事は資金の仲介です。資金の余っているところからお金を預かり、資金の不足しているところに貸し出しを行い、預金金利と貸出金利の差で利益を稼ぎます。ところが日銀によるマイナス金利政策の導入によって金利差が縮小し利益が減少しました。生き残るため、保険やM&A仲介と言った手数料ビジネスに活路を見出す地銀も増えています。

銀行株は典型的な景気敏感株なので、景気が良くなる局面では株価が上昇する傾向を持つことから、買い時は景気低迷時でしょう。景気がピークに近づいている時に買うのは大変危険です。


銀行は本業で儲からず、デジタル化への対応も必要で、待ったなしの構造改革が求められています。
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オススメの情報源
⇩⇩
www.chiginkyo.or.jp

ちなみに、スルガ銀行の設立は1895年で、125年の業歴を誇ります。本社は静岡県沼津市通横町23。三越前に大きな看板がでているので、そこが本社だと思ってました(汗)
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※本社の写真

四季報を読んで思ったこと

[2018年3集]四季報では、2019年3月期の予想経常利益を365億円としていました。
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[2018年4集]では250億へ減少しました。
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[2019年1集]では-755億と大幅減少となりました。
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このように、四半期ごとに減少していき、株価も2,800円から400円(2019.6.14時点)くらいにまで暴落しました。7000億円近くあった時価総額も今となっては約1,000億円にまで減少しています。2019年5月15日発表の決算では、経常利益-743億円が報告されました。

[2019年3集]より、2020年3月期を160億円の黒字、2021年3月期を140億円の黒字とそれぞれ予想していますが果たしてどうなるでしょうか。
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銀行業は業種全体として、経常収益に対する経常利益率が約25%ですが、スルガ銀行は今期の予想経常収益を1,250億円、経常利益を160億円としているので経常収益に対する経常利益率は13%といったところです。スルガ銀行は、中小企業や個人を対象とした融資を中心のビジネスとしており、2016年頃までは経常収益に対し40%近くの経常利益がありました。直近の動向として、四季報の【材料欄】にあるとおり、全四半期と比較して預金流出幅は徐々に減少しているようです。色々取り上げられている問題が解決されたら高利益率の状態に戻るのか長い目で追っていく必要があるでしょう。

スルガ銀行の従業員数を確認してみましたが、実際ほとんど変化していなかったです。
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参照元:Ullet)

地方銀行数社の平均年収を比較してみました。

平均年収
スルガ銀行:約740万円
千葉銀行:約730万円
静岡銀行:約760万円
清水銀行:約620万円
八十二銀行:約650万円
ふくおかファイナンシャル:約720万円

株主情報について、創業家による関与が推測される資産管理会社、関係会社は2018年3月末時点で以下のようになっています。

創業家による関与が推測される資産管理会社・関係会社
エスジー・インベストメント:5.48%
スルガ総合保険 :4.74%
エスジー・アセット:2.91%
スルガ奨学財団:2.33%

外国人投資家の保有比率も2018年3集では32.9%ありましたが、2019年3集では19.3%へ減少しました。外国人投資家もかなりダメージ大きいですね。それと、浮動株の比率がここ1年で3.2%から10%に増加していますので、50単元未満の株主が増えていることが伺えます。

社長は2018年9月7日付で有国 三知男(ありくに みちお)氏に変わりました。以前から取締役には名を連ねているので、問題発覚の前からいたようです。こんなニュースもありましたので、よかったら参考まで。
totibaikyaku.com

新卒の採用も2018年は88名でしたが、今年は34名と大幅に減りました。

ざっと、四季報を読んだ感じではこんなイメージでした。

財務状況

スルガ銀行の財務状況を把握するため、有名な地方銀行を比較して見ていきます。

比較対象
スルガ銀行(約1,000億円)
八十二銀行(約2,400億円)
静岡銀行(約5,000億円)
千葉銀行(約4,500億円)
※()は、2019年6月14日時点の時価総額

まず経常収益です。銀行や生命保険会社は売上高ではなく「経常収益」という言葉を使います。損益計算上、通常の営業活動による利益のもととなるものなので、売上高と同義で捉えても良いかなと。スルガの経常収益は静岡銀行千葉銀行と比べておおよそ2分の1といったところでしょうか。
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経常利益は次のようになっています。スルガは八十二よりも経常収益が少なかったのに、経常利益では八十二を上回っている時期がありました。
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各社のキャッシュフロー計算書の推移は次のようになっています。スルガは営業CFが約5,500億円の赤字となり、現金同等物もほぼ同額の約5,500億円減少となりました。
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経常収益に対する経常利益は以下のようになりました。銀行業としての平均は約25%です。もともとスルガはこの数字が非常に高かったようです。
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従業員一人当たりに対する営業収益も実績ベースでは非常に高い数字を記録していました。
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経常収益は次のようになっています。銀行というビジネスモデルはずっと変わらないのに千葉銀行は安定しているなと。
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自己資本比率です。ちなみに国内基準行では自己資本比率の達成すべき最低水準を国際統一基準行の半分である4%としています。仮に自己資本比率が4%を下回れば金融庁による早期是正措置が発動されます。
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地銀の収益率を測る指標として全104行の総資産収益率(ROA)をランキングにて表示。
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参照元週刊エコノミスト

与信費用トップのスルガ銀行は投資用不動産向けの不正融資で1363億円を計上し、17年ぶりの最終赤字を計上しています。
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参照元週刊エコノミスト

貸出金利回りトップもスルガ銀行で、不正融資問題を受けて高利率が見込める不動産投資向けローンが激減し、貸出金利回りは2018年3月期から0.29ポイント減ったものの3.32%という高水準を維持。
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参照元週刊エコノミスト

経費率は業務亜粗利益に対する経費の比率で銀行業務の効率性を示す指標の一つです。この数値が低いほど効率性が高いことを示しています。
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参照元週刊エコノミスト

会社予想のPER比較は以下のようになります。
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まとめると以下のようになります。

時期 スルガ銀行 八十二銀行 千葉銀行 静岡銀行
時価総額 19.6 1,000億 2,400億 4,500億 5,000億
経常収益 20.3四予 1,250億 1,600億 2,500億 2,450億
経常利益 20.3四予 350億 320億 820億 770億
一人当たり経常収益 18.3 8,200万 4,800万 5,200万 5,600万
営業CF 19.3 -5,474億 9,125億 2,516億 733億
投資CF 19.3 -10億 -2,773億 605億 1,997億
財務CF 19.3 -25億 -105億 -270億 -762億
現金同等物 19.3 4,176億 19,548億 19,827億 9,086億
自己資本比率 18.3 7.7% 7.3% 6.6% 8.6%
経常利益率 20.3四予 28% 20% 33% 31%
経常収益伸び率 20.3四予 -11% -3% 4% 2%
PER 20.3四予 9.3倍 10.7倍 8.7倍 9.5倍
PBR 20.3四予 0.4倍 0.3倍 0.4倍 0.5倍

ローン状況と貸倒引当金

貸倒引当金の状況は以下のようになっています。

ローン残高 貸倒引当金 貸倒引当率 遅延率
シェアハウス 2,020億円 1,393億円 69% 39%
投資用不動産ローン 16,390億円 417億円 3% 1%

シェアハウスに対しては、ローン金額に対して70%近くがすでに貸倒引当金として計上 されています。よって、遅延率が大幅に変わらなければ、ある程度はすでに織り込み済みの状態と言えるでしょう。【個人ローン】の表が2018年11月の短信から公開され始め、まだ今回を含めて2回しか公開されていませんが「遅延率」が四半期ごとに増加しています。次回の短信でもさらに悪化するかもしれませんので、この点は注視すべきでしょう。

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参考元:決算短信【実質与信費用・貸倒引当金について】2019.5.15



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参考元:決算短信【個人ローン】2019.5.15



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参考元:決算短信【個人ローン】2019.2.14

結論

スルガ銀行の月足チャートはコチラ。株価は2011年の安値も下回っていて大分下がりました。
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結論
以下参考①にあります2017年3月期の最終益400億円にまでは回復せずとも、その半分である最終益200億円にまで業績を回復させられれば、PER8倍で換算した時に時価総額は1,600億円となります。参考②より銀行の平均PERは7.9倍です。もちろん倒産してしまう可能性もありますが、現状の貸倒引当金の状況を見るに高く見積もっても20%程度ではないでしょうか。特に根拠もない非常にざっくりした数字ですが、倒産確率20%、株価上昇60%の期待値を換算すると「1.28」といったところです。(1.28=0×20%+1.6×80%)株価が344円にまで下落すれば時価総額も800億円となるため、期待値も1.6となります。個人的には期待値が1.5を上回る案件に投資したいので、結論もう少し待機かなと。

参考①
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参考②
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スルガ銀は現在、コンプライアンス態勢の再構築と、ガバナンス態勢の強化を軸に改革を断行しているようで、2020年3月には全社員の行動・判断の基準となる「コンプライアンス憲章」を制定し、実践していくことを宣言しています。
より強固で適切な企業統治を実現するために監査等委員会設置会社への移行を決議し準備を進めているようですが、健全な組織風土を構築し、信頼回復へ向けた道のりはまだまだ遠そうだなと。

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